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空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の                 愛妻家の食卓

空想作家と専属イラストレーター&猫7匹の     愛妻家の食卓

『サンタ外伝』

『サンタ外伝』


憶えているでしょうか?あの、小さな冒険者たちを・・・

『ボタン工場のカムイ』のカムイ&サンタを・・・


この物語はカムイの頼れる相棒のサンタの物語です

まだ、サンタがカムイに出会うずっと前の物語・・・



『サンタ外伝』

カタカタカタカタ・・・・

ここはある大手製薬会社の一角

動物実験の部屋・・・

人間が人間の命の為に他の動物たちの命を使って実験する部屋

ネズミ舎・猫舎・犬舎・猿舎・・・

その中でも一番最初に実験されるネズミ舎にサンタは居た。

カタカタカタカタ・・・・

その部屋には数え切れないほどのゲージが置かれ、
数え切れないほどの動物が飼育されていた。

カタカタカタカタ・・・・

〈おいら、いつからここに居るんだろう・・・〉

ある1匹のハツカネズミは疑問をもっていた。

カタカタカタカタ・・・・

〈おいらは何?ここはどこ?〉

その1匹のハツカネズミは薬の投与により記憶がなくなっていた。

カタカタカタカタ・・・・

「おい、621!」

すぐ右隣のゲージからもう1匹のハツカネズミが声をかけた。

〈おいらのこと?〉

「そうだ、大丈夫か?621」

〈621?それがおいらの名前?〉

「何言ってるんだ、しっかりしろ!俺たちは実験用のネズミ、名前なんてあるか」

〈実験?〉

「本当に解らないのか?」

〈うん・・・〉

「ここは人間という神様の実験場、神様の為に俺たちは生まれ神様の為に実験される」

〈神様・・・〉

「そうだ、人間だ」

〈人間・・・〉

「だからお前も実験され記憶を無くしたんだ、621っていうのはお前がいるゲージに書かれている数字だ、前にいたネズミも621、お前が死んだらまた新しい621が来る」

〈・・・君は?〉

「620だ」

そうして、2匹のネズミが話をしていると、今度は左隣のハツカネズミが声をかけてきた。

〔620、621、私はもうすぐ天国に行く、辛く長い日々とはおさらばだ〕

「622・・・お前やっとその時が来たのか・・・ご苦労だったな、おめでとう」

〈・・・〉

〔あぁ、やっとだ・・・私の役目は終わった・・・〕

そう言うと、そのネズミはバタンと倒れ、2度と起き上がることは無かった。

〈死んだ・・・〉

「天国に行ったのさ、ここで神様の為に辛い思いをしたんだ・・・俺たちもすぐ、行けるさ・・・」

〈・・・それだけ?その為だけに生まれて死んでいく・・・おいらはそれだけ?〉

「どうしたんだお前・・・ここではそんな考えは死ぬより辛いぞ?」

〈・・・嫌だ・・・おいらは夢を見たんだ!〉

「夢?」

〈うん、見たことの無い知らない世界・・・とても楽しくて美しい世界だった〉

「それが天国じゃないのか?」

〈ううん、違う・・・〉

「・・・とにかく余計な事は考えるな!」

〈そうだ・・・自分に名前をつけよう〉

「名前?何の意味がある?」

〈621、前のネズミもおいらが死んで違うネズミが来ても同じ621・・・でも、おいらは他の誰でもない、同じじゃない!〉

「・・・勝手にしろ・・・」

〈・・・サンタ!おいらの名前はサンタだ!〉

「サンタ・・・」

〈そう、これからはサンタ、君にも名前をつけてあげる〉

「俺に?余計なことするな」

〈どうして?いいじゃない、何も変わらなくても・・・今を楽しんでも・・・〉

「・・・」

〈そうだ、君の名前はムンタ〉

「おい、何だその名前?」

〈そう頭に浮かんだから〉

「俺の言うことを無視しやがって・・・」

〈ムンタ、いいじゃない!〉

こうして、2匹の仲は意見が違っても深くなっていった。

しかし、現実は名前だけでは幸せにはなれない・・・

〈ムンタ・・・大丈夫?〉

ムンタは薬を投与された。

「サンタ・・・大丈夫だ・・・でも、長くはないような気がする」

〈そんな・・・痛むの?〉

「あぁ、体中が痛い・・・でも、これに耐えたら天国だ」

〈・・・〉

やがてムンタの体は腫上がり、毛も向け始めた。

「おい・・・サンタ・・・もう耐えることが辛い・・・どうしたら死ぬことができる?」

〈・・・ムンタ・・・たぶんもう少しだから・・・〉

サンタも辛かった。

そして、そんなある日・・・事件は起こった。

それはサンタのゲージの鍵がかけ忘れられたのでした。

〈外に出られる・・・〉

しかし、サンタはどうしたらいいのか分からなかった。

「・・・サンタ・・・出るんだ・・・」

〈本当にいいのかな・・・〉

「・・・大丈夫だ・・・しばらく誰も来ないはずだ・・・」

〈うん・・・〉

サンタは思い切ってゲージの外に出た。

〈本当に出られた!すぐにムンタも出してあげるよ!〉

「・・・バカ言うな・・・そんな無駄なことに時間と体力を使うな・・・」

〈でも・・・〉

「・・・でもじゃない、見てみろ・・・俺の姿を・・・立ち上がれないんだ」

〈ムンタ・・・〉

「走れ」

〈えっ?〉

「・・・走れサンタ!」

〈どこに?〉

「・・・とにかく走れるだけ走るんだ・・・」

〈・・・〉

「・・・人間に捕まらず、ここを出るんだ・・・」

〈ムンタと離れるのは嫌だ・・・〉

「・・・俺は黙っていても後わずかだ・・・お前は生きろ」

〈・・・〉

「・・・誰の手にもその命を渡さず、生きろ・・・俺の分まで生きろ・・・」

〈・・・でも、怖いよ・・・〉

「・・・お前なら・・・大丈夫だ、俺が今から人間の気を引いてやる」

〈どうやって?〉

「・・・俺の残りの力を全て出し切って叫ぶ・・・信じて俺が叫んだら走れ・・・」

〈・・・〉

「・・・いいか、振り返るな、誰に声をかけられてもここを出るまでは振り返るな・・・」

〈分かった・・・〉


そして、ムンタが命をかけて叫んだ!


『俺様はムンタだー!そして、ここに居るのはサンタ!こいつが今から自由を目指す!皆、力を貸してくれ!そして叫べ!行けサンタ!』


それはまさに命の叫びだった。

〈ありがとう!ムンタ・・・〉

バタン・・・

ムンタが倒れた音がしたが、サンタはムンタの言われたとおり無我夢中で走った。

そして、ムンタの叫びは他の動物たちにも届き、皆が叫び騒いだ。

その異様な状態に人間たちは足元を行くサンタに気が付かず

サンタは自由を手に入れた・・・


ボタン工場のカムイに出会う1年前の話です。

おわり。


命とは何か?難しいけど尊いものではなかったか?

しかし、現実・・・動物実験なしで人間に薬が投与されることはない。

それを研究する者や携わる者に罪は無い・・・

誰も薬に助けてもらったはずだから・・・

この僕も敦聡も薬を手放せない現実

切ない・・・

どうしようも無い

ただ・・・

人間の為に全ての命があるのではなく、人間があっての他の命でもない

むしろ逆という事を理解していただきたい

人間はただ生きているだけでも他の命の上に立って、

犠牲にして生きる者なのです

せめて目の前にある命、全てに愛と感謝を・・・


こんな切ない世の中だから、僕が好きな猫たちも生まれた環境で全てが左右されてしまう

せめて・・・僕の物語の中だけでもと書いたのが

『猫のなる木』

ノラ猫にこんな猫の楽園があったらいいなぁと、書いたのが

『猫のなる木』です


皆がどうとらえるか分からないけど、それぞれの思想を尊重します

僕ができる事はこれから先も物語を書くぐらいしかできないけど、

いろんな角度からメッセージを送りたいと思います


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